ビートたけしさんの「アナログ」を読んだ感想、レビュー
2019/02/26
ビートたけしさんの書き下ろし小説「アナログ」を読んだので感想を書いてみます。
まず、アウトレイジの最新作が公開されたとほぼ同時期にこの本が発売されたことに驚きを感じますね。こんなに年をとって体力も落ちているであろうに、新しい「小説」ということに挑戦している。もう我々のような凡人とはもうハナっから違うのだと感じます。あと、アウトレイジがヤクザ映画であるのに対して、この「アナログ」は恋愛小説なのです。正反対のようなことを異なる表現方法で表現していますが、彼の作品はすべて人間関係の持つ奥ゆかしさを描いているように感じます。ここに彼の奥深さが感じられます。この小説は思った以上の売れ行きのようで、初版分は売り切れて、Amazonでも入荷待ちとなっていました。
これも言っておかないといけない。私はまだアウトレイジの最新作を観ていません。そんなオッサンが、「アナログ」を読んだ感想を率直に書いてみます。
水島というインテリアデザインの職業の男が、自分の会社がデザインをした「ピアノ」という喫茶店でみゆきという女性と出会います。ここで主人公は恋心を抱きますが、連絡先を聞かずお互いのことを詮索せず、アナログな方式でまた会えるか、に賭けることにします。「木曜日の18時30分にピアノにお互いが来るかどうか」です。
そんなときにかぎって、主人公にはたくさんの仕事があって、木曜日にピアノに行くために徹夜で仕事をします。
アナログの素晴らしさ。それはケータイが無い時代にはほとんどみんなが感じていたあの感じ。相手が今何をしているのだろうか。どこにいるのか。想像は昔のほうが膨らんだのは確かです。いまはLINEをすれば相手にすぐメッセージが届くし、それを読んだかどうかもすぐわかる。でもあの頃のようななんともいえない奥深さはなくなってしまったように思います。こんな私でも、付き合った彼女の家の電話にかけてお父さんが出るドキドキも経験しています。家にいるのに、お父さんに「○○はいません!」と言われたりね笑
「連絡がとれない時間が色々と想像をしたり、相手を想ったりして、とても貴重なものだった。」というのは、いまの若い人達には理解不能なのかもしれませんが、絶対にそういうことはあったと体感として言えます。
そんな主人公には仲の良い男友達が2人いて、その友達と焼き鳥屋で頻繁に飲んでバカ話・エロ話をします。女性がどう感じるかはわかりませんが、男友達って通常こんなもんかなと思います。バカ話とエロ話をして、酒を飲んで、笑いあって。
そして、この作品をとてもビートたけしさんの作品だな!と思わせる登場人物がいます。それがお母さんです。女手一つで主人公を育てた母親。徐々に弱っていく母親だが、その描写は心の気高さがあります。「忙しいんだからあまり無理して来なくていいよ」とか、「もう死ぬからね。お前に迷惑を掛けないように。」といったような文章が、たけしさんが母親に感じていた崇高さを映しています。しかし、大阪に出張しているときに、容態が悪化してしまいます。さらにはその後、大阪に長期勤務のために引っ越さないといけないという事態が発生します。
そこで主人公は、ピアノで木曜日に会ってデートを重ねる女性、みゆきにプロポーズすることを決意します。まだ肉体関係もないのに。みゆきに母親に感じたような感覚を覚える主人公。これはたけしさんが母親をとても尊敬していたということが色濃く出ています。女性を上に見て尊敬しているたけしさんの感覚が良く出ています。プロポーズを決意してからは、ピアノにみゆきが現れません。そしてとうとう大阪への引っ越しの日が訪れてしまいました。
ここからはみなさんにぜひ読んでいただきたいのですが、読み終えた感想としては、とてもビートたけしさんを感じる良い作品だと思います。「文章が小説家のような書きっぷり」ということは正直ないです。そういう意味では又吉さんとかのほうが小説家っぽいのかもしれません。Amazonではそういう批評も見受けられました。でも、私がビートたけしさんの小説にはそんなものいらないと思っています。いわゆる「それっぽさ」です。何度も同じ表現があったっていいのです。少なくとも私が期待するのはそういう「良くできた感」ではないです。彼の初監督の映画作品「その男狂暴につき」は、彼の才能が炸裂しまくっていました。いわゆる「映画というのはこう撮るべき」という常識をひっくり返して、たけしさんはあんな素晴らしい作品を撮りました。
最後のほうの展開は粗削りだと感じますが、彼の持つ独特の世界観は感じることができます。彼が感覚的な人だからこのような短い文章になってしまうのかもしれません。まどろっこしい説明の描写はあまりないです。コレが小説に詳しい人からするとマイナスなのかもしれません。私は全然気にならなかったですし、むしろこういう我流の作品好きですね。あえていってしまうと、北野ブルーを感じることができます。本のカバーを外したときのこの色もいい感じの青でグっときました。
男は、本当に女性に恋心を抱くと、肉体関係が優先しない、こんな変な状態になるような気がします。でも男がこうなってしまうと、現実的にはうまくいかないことが多いという何か切ないものがあるように思います。
なぜビートたけしという人が、下ネタを言いまくって、愛人を作って、ヤクザ映画を作って、暴力事件を起こして、めちゃくちゃをしても、下品に感じないのか。ここにあるのだと思います。
彼は気品をきちんと持ち続けています。お母さんに教わった美学なのですかね。下町と浅草で育った芸人とは思えない気高さがありますよね。そんなみっともねえことしない。みたいなね。あと学び続けること、挑戦し続けることが気品を保ち続けているのかもしれません。いつまでも学び続けて努力をする彼の姿勢は、島田洋七さんとか親しい方はみなさんおっしゃいます(小説に出てくる大阪の島田は洋七さんからかな?)。ピアノを歳をとってから始めたり、数学の勉強をしたり、若い方のお笑いをかなり見ているのだそうです。
きっと映画も小説も、自分がやるにあたって、とても研究したと思います。色んなものを本当に常人には理解できないスピードで観たり読んだりしたと思います。そのうえで、我流にやることの難しさがある。誰かのマネをしてそれっぽくしたら、ある程度にするのはこのくらいの人になればすぐできると思います。でも、そのようにはせず、重要なエッセンスだけに削ぎ落として、自分のスタイルで書いたのだと思います。
長く書きましたが、私はこの「アナログ」は好きです。傑作とはいえないにしても良作だと思います。少しだけ苦言を呈すなら、もう少し感性が尖っていた頃のたけしさんが、こういった純愛について小説を書いたら、もっと深みのある傑作になっていたかもしれない、というただの「たられば」です。こんな歳になっても新しいことに挑戦したというその姿勢が素晴らしいですし、作品も好印象なのですが、今にも殴りかかってきそうなキレッキレの頃のたけしさんにとっての恋心はどんなものだったのだろうと妄想はします。
そして、このアナログという作品は、売れているようなので、ほっておいても買う人が多いのかもしれませんが、ぜひ男女問わず、アウトレイジはヤクザものだしちょっとなーという人にも手にとってもらいたい良い小説です!
ではー